訴状

請求の趣旨

  1 被告は原告に対し、金770万円及びこれに対する平成23年4月1日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

 

請求の原因

第1 当事者

 1 原告は、2002年(平成14年)4月1日より2011年(平成23年)3月31日までの9年間、茨木公共職業安定所の専門援助部門および職業相談部門において、非常勤職員として勤務してきた女性である。

   原告には1995年(平成7年)生まれの現在高校1年になる未成年の子がおり、ひとり親家庭の親として未成年者を扶養している。

 2 原告は、被告国の厚生労働省大阪労働局長により、茨木公共職業安定所(以下「ハローワーク」という)の非常勤職員として任期1年の任用を8回継続して更新され、その職務に従事してきた。

   しかし、2011年(平成23年)3月29日、再任用を拒否され、同月31日をもって任期満了により失職させられた。

 

第2 原告の任用と職務内容

1 原告は、2002年(平成14年)4月1日、大阪労働局長より、ハローワークの専門援助部門の「職業相談員」として、以下の委嘱条件のもとに任用され、職務に従事することになった。

  委嘱期間:平成14年4月1日~平成15年3月31日まで

  勤務場所:茨木公共職業安定所 

  始業・終業時刻及び休憩時間:平日・土 午前9時から午後5時まで、うち休憩時間60分

  勤務日:1か月あたり15日とする。 

   日給制:月収 約12万円

  2 原告の「職業相談員」としての職務内容は、相談業務の後方支援であり、具体的には以下のとおりであった。

  障がい者・外国人・母子家庭の母・学卒者の就労に係る事務

・紹介後の事業所への電話での採否確認及び結果入力

・学卒者の就職希望者とその保護者との出張面談補佐(記録係)

・学卒者の職場定着確認のための事業所訪問

・採用後の勤務継続の電話による確認    など

  総合受付業務

 3 原告は、「職業相談員」としての上記通常業務に加え、以下の職務を担当した。

   原告の英語力を生かした英語しか解せない来所者への対応

  「求職者対象のセミナー(レベルアップ講座)」の講師

就労開始直後、原告は、その経験と能力を評価した職業相談部門の統括職業指導官に指示され、平成14年6月より、月2回(前編・後編各90分)の「求職者対象のセミナー(レベルアップ講座)」の講師を担当した。原告は、同セミナーの企画・運営を一人で行い、「面接に失敗しないためのマナーと話し方」というタイトルのテキストを独自に開発し、当該セミナー関連の業務をすべて一人で担当した。

  「障がい者雇用促進セミナー」の司会

平成14年9月、原告は、「障がい者雇用促進月間」に茨木市とハローワークの共催により開催する事業者対象の「障がい者雇用促進セミナー」(後に名称が「障がい者支援セミナー」に変更)の司会を担当し、以後、毎年9月(または10月)に開催される当該行事の司会を、2010年(平成22年)10月まで、9回連続して担当した。

 

第3 再任用による任用の継続

 1 ハローワークの非常勤職員の任期は1年とされている。しかしながら、慣行により、毎年任用期間満了の約1ヶ月前の2月末頃に、各非常勤職員と上司の個人面談が実施され、次年度の任用の更新を希望するか意思確認が行われ、更新を希望した者は、再任用されている。

2 原告は、2003年(平成15年)2月末の個人面談を経て任用更新を希望し、その希望どおりに前年と同じ委嘱条件で、2003年(平成15年)4月より再任用された。

   その業務内容は、前年と同様であり、職業相談員としての職務に加えて、英語しか解せない来所者への対応、「求職者対象のセミナー」の講師、「障がい者雇用促進セミナー」の司会を引き続き担当した。

3 さらに、翌2004年(平成16年)も、同様の手続を経て任用更新を希望し、その希望どおりに再任用され、2005年(平成17年)3月31日まで、職業相談部門の職務に従事し、かつ、英語しか解せない来所者への対応、「求職者対象のセミナー」の講師、「障がい者雇用促進セミナー」の司会を担当した。

職業相談部門では、専門援助部門が行う後方支援ではなく、求職者に対する直接の相談業務を担当する。具体的な業務内容は、一般求職者への職業紹介・相談・求職票登録事務・離職票受付事務であり、原告は履歴書や職務経歴書の添削、キャリアコンサルタントへの誘導案内、予約手続きを行ったり、市役所や社会福祉協議会、労働基準監督署などの関係機関に問い合わせたり、繋げるなどし、相談者の悩みを解決するための業務に従事した。

4 2005年(平成17年)2月、原告は、同様の手続きを経て、任用更新を希望し、所長より月20日勤務となる委嘱条件の職務を命じられ、同年4月1日より職業相談部門の「適職選択サポーター」の職務に従事することとなった。月収は約15万円に上がった。

  原告は、前年と同様、求職者に対する直接の相談業務に従事し、かつ、従前より担当していた英語しか解せない来所者への対応、「求職者対象のセミナー」の講師、「障がい者雇用促進セミナー」の司会を引き続き担当した。

  さらに、原則35歳未満の人を対象とする「若年者セミナー」を毎月最終金曜日に120分、担当することになった。このセミナーに関しても、原告が一人ですべてのコーディネートを行い、「模索しているあなたへ」と題するテキストを作成し、広報のチラシも作成した。原告は、心理学の交流分析の手法を取り入れ、求職者の自己分析や自己表現の力をつけられるようにしたり、ワークショップ方式を取り入れ、孤立しがちな求職者の自信回復につながるよう工夫するなどした。

5 原告は、2006年(平成18年)も、同様の手続を経て任用更新を希望し、その希望どおりに同じ委嘱条件により再任用され、「適職選択サポーター」の役職名により2007年(平成19年)3月31日まで、前年と同様の職務に従事した。

  原告は、引き続き、英語しか解せない来所者への対応、「求職者対象のセミナー」の講師、「障がい者雇用促進セミナー」の司会、「若年者セミナー」の講師を担当した。

6 原告は、2007年(平成19年)も、同様の手続を経て任用更新を希望し、その希望どおりに再任用された。なお、同年4月1日からは、「フリーター常用就職サポーター」の役職名となり、月収は約21万円に上がった。

「フリーター常用就職サポーター」は、「適職選択サポーター」の名称が変更となったものであり、その職務内容はほぼ前年と同様であるが、より困難な求職者の対応をし、原告は求職者に対する直接の相談業務に従事した。また、英語しか解せない来所者への対応、「求職者対象のセミナー」の講師、「障がい者雇用促進セミナー」の司会、「若年者セミナー」の講師も引き続き担当した。

この頃より、始業・終業時間に関してシフト制が導入され、平日は①午前8時45分から午後5時15分まで、②午前10時30分から午後7時まで、土曜日は午前9時から午後5時30分までとなった。

7 さらに原告は、2008年(平成20年)もこれまでと同様の手続きを経て任用更新を希望し、その希望どおりに、同年4月1日より前年と同じ委嘱条件で再任用された。

8 そして、2009年(平成21年)、2010年(平成22年)にもそれぞれ同様の手続を経て任用更新を希望し、その希望どおりに再任用され、従前と同様の業務に従事した。

9 このように原告は、2002年(平成14年)4月1日の初任用以来、2011年(平成23年)3月31日までの9年間、継続してハローワークの職務に従事してきた。原告の非常勤職員としての任期は形式的には1年とされていたが、任用継続の希望を申し出れば、試験・面接などの手続を経ることもなく、当然に再任用されてきた。なお、原告に限らず、ハローワークで働く全ての非常勤職員が、特段の事情のない限り任用継続されてきたのであり、なかには勤務年数が20年を超える非常勤職員もいる。

 

第4 再任用を期待させる客観的事情とそれを受けた原告の期待

 1 原告の職務内容は恒常的なものであった。

原告は、当初の2年間は専門援助部門で相談業務の後方支援に従事し、3年目以後は職業相談部門で直接の相談業務やより専門的な相談業務に従事してきた。

これらの職務は、ハローワークの基幹的で恒常的な職務であり、客観的にみて継続的な職員の配置が必要であった。

 

2 原告はハローワークにとって必要な人材であった。

(1)また、すでに述べたように、原告は通常の相談業務に加えて、当初より再任用拒否に至るまでの9年間、英語しか解せない全館の来所者への対応を担当し、「求職者対象のセミナー」の講師は2011(平成23年)年2月まで、「障がい者雇用促進セミナー」の司会も2010年(平成22年)まで毎年担当した。さらに「若年者セミナー」の講師を、同セミナーが2010年(平成22年)1月に廃止されるまでの5年間担当した。

(2)加えて、原告は以下のとおり、ハローワークの正職員および非常勤職員を対象とする職員研修の講師も担当していた。

① 2006年(平成18年)9月22日、25日

   企画部門の依頼により、45分の接遇研修の講師を担当した。「愛されるハローワークであるために」というテーマでテキストを作成し、実施した。

  2008年(平成20年)5月20日、23日、27日

ハローワーク内の職員を対象とした事業所訪問のためのマナー研修の講師を担当した。なお、職員向の事業所訪問準備研修には4つの講座があるところ(その他の3つは「求人受理と助成金」、「雇用巡る動き」「事業所訪問の体験談」)、他の3つの講師は正職員が担当しており、このような講師を担当する非常勤職員は原告のみであった。

③ 同年9月12日、16日

接遇研修として、「気持ちの良いcommunicationを目指して」というテーマでテキストを作成し、講師を担当した。

接遇研修は、従前はハローワークの予算を使って外部講師を呼び、全体で1回の研修を行う体制で実施されていたものであるが、原告が講師を担当することにより経費削減を図り、かつ業務時間内に職員が交代で2回に分けての研修を受講することが可能となった。  

(3)このように、原告は、ハローワークの業務命令により、職業相談員としても専門性のより高い職務に従事し、かつ、職業相談員の職務に含まれない職務にも従事してきた。そして、その職務内容は、正職員の職務内容と同等のものであった。

  ハローワークは、原告をこれらの職務に従事する必要な人材として取り扱ってきたのである。

 

 3 原告の上司等は、任用継続を期待させる言動を行っていた。

(1)原告は、上記のようにハローワーク内で、その能力を高く評価され、ハローワークに訪れる求職者に対する職業相談の業務にやりがいを感じて職務に邁進していた。

    任用継続は当然のように行われてきたし、原告は上司より、幾度となく期待の言葉を掛けられ、また、キャリアコンサルタントの資格を取得すれば高待遇の職務に従事することができるなどとアドバイスを受けてきた。

(2)2005年(平成17年)6月22日、原告は、当時の職業相談部門のK指導官より、「セミナーを担当するうえで、今後のために見ておかれた方がいいでしょう」と言われ、「大阪キャリアプラザ」の見学に連れて行かれ、おおむね45歳以上の管理職経験者対象の再就職セミナーを見学した。

その後、K氏より、「キャリアコンサルトの資格があるんですが、僕は去年受験して1回目失敗したんです。でも今年受かりました。時任さんも取っときはったらどうです?」とキャリアコンサルタントの資格の取得を勧められた。

(3)2006年(平成18年)2月頃、原告は、相談に来たトランスジェンダーの相談者を求人先の面接に漕ぎ付けた件で評価され、当時の職業相談部門のM統括職業指導官から、あなたは必要な人材と言われた。

(4)2008年(平成20年)12月、従前ハローワークで上席職業指導官をしており、転勤をしたMY氏より、転勤後に「あなたはよくやってくれている。あとは資格を得て客観的根拠を作ることやね。」と励まされた。

(5)2008年(平成20年)または、2009年(平成21年)4月、辞令交付時に、兵庫労働局から新しく着任したO所長より、「前のY庶務課長から、とてもよくやってもらっていると聞いています。がんばってください」と声を掛けられ、原告は、所長と直接話をする機会はめったにないため、期待されていると感じ、今後も任用が継続される嬉しさを覚えた。

(6)このように、原告は、上司などから、任用の継続を前提とする発言を常日頃受けていたのであり、前記のような更新実態や職務内容等もあいまって、特別な事情のない限り、当然に任用が継続するものと期待していた。

 

4 原告の任用継続への期待とキャリアアップ

(1)そして、原告は、このような上司達の任用の継続を期待させる言動を受け、育ち盛りの子どもを養育するひとり親として、ハローワーク内で、より高い給与の役職に従事することを目標に、2009年(平成21年)4月より、キャリアコンサルタントの資格取得のため、平日の仕事終了後の夜間と日曜日に専門学校に通い始めた。

    原告が専門学校に通い始めたのち、職業相談部門の非常勤職員として20年近く働き続けている先輩であるI氏(60歳代女性)から、「私も勉強しとけばよかった。別の所の同僚は資格(産業カウンセラー)を取って、うまいこと上のランク(279200円)にアップしたよ。あなたも子どものために頑張りね。受かったらやっとちゃんとした給料になるね。」と励まされた。原告は、実際に他のハローワークで待遇が上がった人がいることを知り、産業カウンセラーより難易度の高いキャリアコンサルタントの資格を取れば、必ずやランクを上げてもらえると信じ、一層勉強に励んだ。

(2)2010(平成22年)年1月、原告は、O所長に、「これから子どもにお金がかかるので、収入を上げたいんです。ランクの高い職に応募することはできますか」と尋ねると、「なにか資格持ってるの?」と聞かれ、勉強中であることを伝えた。

    原告は、所長との会話により、収入を上げるためには資格取得が必要であることを改めて確認し、一回での合格に向けて勉強に励み、同年2月22日、ライフケアカウンセラーの試験に合格し、次いで3月2日にキャリアコンサルタントの試験に合格した。そして、これらの資格取得を、所長をはじめ上司らに報告した。

(3)しかし、原告は、直後の同年4月1日付の再任用では、従前と同様の委嘱条件となり、キャリアコンサルタント等の資格を取得したものの、ランクの高い職種に任用されることは適わなかった。

原告は、資格取得にもかかわらず、ランクの高い職種に任用されなかったことで気落ちしていたところ、5月頃、出勤途中、偶然出会ったR府会議員(議員事務所がハローワーク隣のビル内にある)に尋ねられ、日常会話の中で事情を話した。

するとMR議員が気をまわして、6月18日、S所長に話したようで、原告は、6月29日、MR議員から、原告が従事しているフリーター関連の業務はずっと続くと所長が言っていたから安心して良いと言われた。

そこで、原告は気を取り直し、翌年にはキャリアコンサルタント等の資格を活かした職務により任用継続されると期待を膨らませた。

 

5 まとめ

  このように原告は、初任用以来、9年間にわたり、継続して相談業務に従事して来たものであり、任用更新の手続は形骸化していた。

  しかも原告は、通常の相談業務に加えて、各種セミナーの講師の職務に従事するなど、その能力が高く評価され、活用されていた。また、平成23年度はキャリアコンサルタント等の資格取得により、任用継続を当然の前提に、さらなる処遇のアップを期待していたのである。

このような原告の任用継続に対する期待は、法的保護に値するといわなければならない。

 

第5 原告に対する突然の再任用拒否

1 ハローワークにおけるセクシュアル・ハラスメント事件の発生

 (1)2009年(平成21年)7月、原告が職場において親しくしていた同僚の女性が仕事のことで悩んでいたので、原告は信頼を寄せていた上司に当該女性の相談にのって欲しいと伝えた。同月10日、ハローワークの職員の懇親会があり、その終了後、当該女性は相談にのってくれるという上司に連れられ、居酒屋に行ったところ、上司からセクシュアル・ハラスメント(以下、「セクハラ」という)を受ける事件が発生した。原告は、翌11日に当該女性から「セクハラを受けました」とメールを受け、女性からセクハラがあったことを聞き、相談を受けるようになった。

 (2)同年8月3日、原告は、被害女性の了承を得た上で、人権研修の担当をしていたSA次長に電話でセクハラがあったことを相談した。SA次長は、原告に対し、担当はXXX庶務課長であるので同人に相談するよう述べた。しかし、XXX庶務課長は、セクハラの加害者と親しい人物であったので原告は話しにくく、人権について理解が深くセクハラに対しても理解がありそうなSA次長にまず相談をしたという事情があった。そこで、原告は、XXX庶務課長が加害者と親しく話しにくいと述べたが、SA次長は仕事だから心配におよばないと答えた。

(3)同年8月5日、原告はXXX庶務課長にセクハラの相談をしたが、XXX庶務課長は外部に漏らしたくないという姿勢であり、真摯に職場のセクハラ事件を受け止めている様子ではなかった。

(4)同月7日、被害女性の相談を受けたXXX庶務課長が、直接の事情聴取を行った。翌8日、被害女性から原告に電話があり、被害女性は、庶務課長は味方ではないように感じたと述べ、家族以外友人にも弁護士にも被害を口外しないように言われ、職場が適切な示談金の算定をすると言われたと述べた。被害女性は被害を内々で隠すことに抵抗を感じていたので、原告は、被害女性に弁護士を紹介した。

(5)その後、大阪労働局が加害上司の処分を決めるための調査手続を行ったが、その調査手続きの中で、XXX庶務課長が作成し、大阪労働局に提出していた被害女性の相談記録は、被害事実の申告としては不十分なものであることが判明し、被害女性の求めにより再調査が行われた。原告はその間も被害女性を励ますなど支援をしていた。

(6)2010年(平成22年)4月2日、大阪労働局がセクハラ事件の加害者の処分を公表し、翌3日、新聞やテレビなど各社で、上記セクハラ事件が報道された。

 

2 原告に対するハラスメント

(1)2010年(平成22年)年4月3日、ハローワーク内でのセクハラ事件が新聞報道されると、原告は、XXX庶務課長より、「茨木勤務が5年を超えると、転勤の対象になります。ここからだと淀川・梅田・池田への転勤が多いです。交通費は1日350円しか支払えませんが、このご時勢ですから失業よりはましだと思ってください。せっかく職相(職業相談部門)にいてはるんですから、いい求人を自分で探して応募してくださっていいです。ここで続けたいなら交通費持ち出しも覚悟しといてください。」と言われた。これに対して、原告は「これから子どもにお金がかかるので、収入ダウンになるのは困るんです。そのために勉強して資格も取りました。ランクがあがれば転勤も耐えられます。」と言うと、XXX庶務課長は、「資格をとりはったのは、時任さんのキャリアにはなるでしょうけど、待遇には反映されません。それでも給料上げたかったらいったんお辞めになって、受かるか受からないか分からない新しい求人に応募して面接受けてもらう必要があります。そのとき面接落ちたらこちらで責任は負えません。」と述べた。

   この時期は、原告が再任用された直後であり、XXX庶務課長がこの時期に原告に不安を与えるような言動を行ったのは、セクハラの事件の報道があったからに他ならない。

(2)同年7月ころ、ハローワークにおいて、XXX庶務課長がセクハラ研修を担当した。原告と前記セクハラ事件の被害女性も当該セクハラ研修を受講した。XXX庶務課長は、セクハラ研修の中で、前記セクハラ事件が掲載されたスポーツ新聞を取り上げ、「事件になるとこういうふうに取り上げられるんですよ。」と、被害女性のいる前でスポーツ紙を示した。このとき、原告の隣にいた被害女性は精神的に苦痛を感じ、水なしで頓服(精神安定剤)を飲んでいた。研修後、XXX庶務課長が原告を呼び止め、研修の感想を求めたので、原告は、被害女性がXXX庶務課長の発言で二次被害を受けたことを念頭に置き、「セクハラは被害にあったその人だけの問題ではなく、そのことを見聞きして第三者が不快に思うこともセクハラなんですと定義されたのはよかったです。でも心が痛みます。」と答えた。これに対して、XXX庶務課長は「言えばいいんですよ。その時に。言えないことの方に問題があるんです。あなたの考え方は民間の考え方です。」と述べた。

セクハラ研修が終わった直後にXXX庶務課長が、原告だけを呼び止め意見を求めたのは、被害女性の支援を行っていた原告に対し、「民間の考えである」と批判するためであった。この発言は、XXX庶務課長が被害者支援をする原告を疎ましく感じていたことを示す事実である。

 (3)同年秋ころ、ハローワークのSU所長が職場内のセクハラについて、職員にヒアリングを行った。原告以外のほとんどの職員は、SU所長と二人で面談をし、ヒアリングを受けたが、原告の時はXXX庶務課長が同席した。そして、ヒアリングの際に、原告が、IC上席職業指導官が「夢で犯してやる」と非常勤職員に言っていたことが不快だったと話したところ、XXX庶務課長は、「それは最近ではないでしょう。きつく注意したから最近は治っているはずや。」と述べ、原告の発言に異議を唱えた。

(4)同年10月21日、原告は、「求職者対象のセミナー」(第2の3項②)の講座開始直前にC上席から講座時間(午前10時からの開始で終了が11時半)を短縮するように言われた。IC上席は、午前11時30分には会場である3階の会議室を明け渡すよう指示し、その理由は3階の会議室を職員が昼休みにお弁当を食べる場所にするためと説明した。午前11時半に会場を明け渡すためには、受講者にアンケートを書いてもらうことなどを考えると11時20分には講座を終了しなければならなかった。これに対して、原告は、ハローワークは求職者や利用者のためのものであり、90分のプログラムを削ることは利用者の方にとってよくないこと、時間を減らす指示をセミナーの当日に言われても長年行っているプログラムであるので困ることを伝えた。しかし、IC上席は「そうは言っても、従業員は使用者の言うことは聞いてもらわんといかん立場やから。」と述べ、原告のセミナーの実施時間を削ることを要求した。そこで原告は、この日、午前11時20分で講座を終了し、11時半に受講者の方に会場を出て行ってもらった。

     しかし、この日のアンケートには、時間が足らなくて慌ただしかったという感想が複数あったので、原告はセミナーがあるときには、12時まで会議室を使わせてほしいと昼休憩をとる職員にお願いをして回った。

     昼食をとる場所は3階の会議室だけではなく、庶務課奥の会議室、更衣室、市役所のレストランなどがあり、職員の昼休みは12時前後であるので、必ず11時半に会議室を明け渡す必要性は全くなかった。また、原告がC上席から指示を受けた10月21日にこの会場を昼食場所として利用する者もいなかった。

 

 3 原告の合理的期待を侵害する突然の再任用拒否

(1)2011年(平成23年)2月末、例年とは異なり、非常勤職員全員が会議室に呼ばれ、XXX庶務課長から「皆さんの契約は3月末で切れます。今回、21万円のランクの職はなくなるだろうと言われています。」と話があった。

(2)同年3月16日、原告は、XXX庶務課長から個別に呼び出され、「新たに出る求人へ応募し直すように」と言われた。「一般求職者と同様に、求職登録してハローワークカードを作ってもらって、紹介状もらって応募してください。決して、業務時間内に同僚に頼んだり、自分で発行しないように。」と言われた。

(3)同月18日、XXX庶務課長は、「資格も取りはったし、業務内容も重なってますから、この仕事が一番ふさわしいんじゃないですか。子どもさんもいてはることやし、15万じゃ、やっていけないでしょう」と言いながら、基本給27万9200円の「就職ナビゲーター」の求人票2件と、基本給15万4千円の「職業相談員」の求人票2件をホッチキス留めにし、1枚目の27万9200円の求人票に『時任氏』と記載して、原告に手渡した。原告はやっと努力が評価されると思い、XXX庶務課長に感謝の言葉を述べた。

(4)同年3月22日、原告が、XXX庶務課長の指示通り、仕事が始まる前の朝一番の窓口がすいている時間に番号札を引いて一般求職者と一緒の席に座って紹介状の発行の順番を待った。しかし、XXX庶務課長から意味が分かっていないと呼び出しを受けた。XXX庶務課長は、原告を庶務課に呼び出し、会議室に場所を移し、「面接の設定はこっちでして伝えるって言ったでしょう。わかってないな。」と言った。原告は、聞いていた話と異なるので混乱し、「じゃあ、お声がかかるのを待ってたらいいんですね。」と述べた。すると、XXX庶務課長は「そうです!」と乱暴な口調で言い、会議室を勢いよく出て行った。原告は、XXX庶務課長の指示があったので、他の職員に見られながらも恥を忍んで順番を待っていたにも拘らず、分かっていないと怒られ非常にショックを受けた。

(5)その後、原告がXXX庶務課長からもらった求人票の面談の日時について、「3月24日午後」と言われたが、この日は子どもの高校入試の合格発表があったので、以前から年次有給休暇を取得していた。そのため、午前中にしてもらいたい旨をXXX庶務課長に申し入れをすると、3月29日に面談を行うということであった。その後、原告は、面談の時間を変更してもらったことが再任用に不利に働くことを恐れ、その日にXXX庶務課長に電話をした。すると、XXX庶務課長は「24に面接しようが29にしようが結果は決まってます。」と述べた。

(6)同年3月29日午前10時半から、原告は、求人票に「時任氏」と書かれていた「就職支援ナビゲーター」の面接を受けた。しかし、面接終了後から15分後の11時ころに再任用しないことを告げられた。

(7)再任用拒否に至った際のXXX庶務課長の行為は、原告に、任用継続の期待を持たせるために「時任氏」と書かれた求人票を渡し、原告に期待を持たせるだけ持たせておいて、任用を拒否するという極めて残酷な行為であった。

 

第6 被告の不法行為-原告の任用継続への期待権に対する侵害

1 原告が再任用を拒否された真の理由は、職場でセクハラ被害に遭った女性職員の被害回復のための支援を行ったことであり、それ以外の理由は見当たらない。

原告の従事していた職務は、継続性が求められる恒常的な職務であり、9年間にわたって任用継続されており、再任用の手続は形式的なものでしかなかった。原告の職務内容や任用継続を期待させる上司等の言動、任用継続を前提にした原告の行動なども考え合わせると、前述の通り、原告の任用継続に対する期待は法的保護に値するものである。

 したがって、原告の本件再任用の拒否は、合理的理由を欠き、違法である。

2 とりわけ、本件においては原告がセクハラ被害者の支援を行ったこと以外に、再任用拒否の理由はないのであるから、その違法性はより重大である。

  人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の第4条は、「各省各庁は・・・セクシュアル・ハラスメントに対する苦情の申出、当該苦情等に係る調査への協力その他セクシュアル・ハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が職場において不利益を受けることがないようにしなければならない」と定め、「人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について」において、第4条関係に関して、その規定の職員への周知を求めている。原告にとって、任用が継続されて仕事を続けることができるかどうかはまさに死活問題であり、再任用が拒否されることは、究極の「不利益取り扱い」である。セクハラ被害者の支援を行ったことを理由とする不利益取り扱いには何らの合理性がなく、人事院規則10-10の第4条に違反している。

  3 しかも、改正均等法第11条2項は、事業主がセクシュアル・ハラスメントを防止する対策として必要な措置を講じることを義務づけ、厚生労働省が発した同条に基づく指針(平成18年厚生労働省告示第615)においても、セクシュアル・ハラスメントについて相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として「不利益な取り扱い」を行ってはならない旨を定め、労働者に周知啓発することを事業主の講ずるべき措置義務の具体的内容として挙げている。

   民間の事業主に対してセクハラ防止義務に関する指針を発している被告自身が、その指針に違反する不利益取り扱いをし、原告の任用継続への期待権を侵害したことの違法性はきわめて重大である。

 

第7 原告の損害

1 原告は、任用継続への期待権を侵害されたことによって、生活設計に大きな打撃を受け、多大な精神的苦痛を受けた。

原告が再任用を受けていたならば、335万円余の年収を得ていたことは確実である。しかも、本件のようなセクハラ被害者を支援したことを理由とする再任用の拒否は、任用が継続された場合の年収と同程度の慰謝料額を認めた中野区非常勤保育士事件(東京高裁平成19年11月28日判決)の事案よりも強度の違法性があり、その損害もより大きいと見るべきである。

原告はひとり親家庭で未成年の子を扶養しており、任用が継続されることは、生活基盤にとって重大な意味を持っている。当時、原告の子は高校進学の直前であり、高校入学の準備等に通常よりも支出が見込まれる時期に無収入になった原告の生活不安は計り知れない。

したがって、これに対する慰謝料としては、金700万円を下らない。

2 また、原告は本件訴訟を提起するため弁護士に委任し、請求額の1割に相当する弁護士費用金70万円を支払うことを約束した。この弁護士費用は、原告の前記損害と相当因果関係を有するため、原告の損害として認容されるべきである。

 

第8 結論

よって、原告は、被告に対し、不法行為責任(国家賠償法1条1項)に基づく損害賠償として金770万円及びこれに対する平成23年4月1日から支払済みまで年5分の割合に基づく遅延損害金の支払いを求めて、本訴を提起する。

 

添 付 書 類

 

          1 訴訟委任状   1通