あまりに理不尽な原判決に、弁護団が渾身の力を注いで書き上げてくださいました。

平成27年(ネ)第2130号

控訴人(一審原告):時任玲子

被控訴人(一審被告):国

 

控 訴 理 由 書

 

大阪高等裁判所第5民事部 御中

 

2015(平成27)年7月30日

 

 

控訴人訴訟代理人弁護士   有   村   と く 子

 

 

   同  弁護士   河   村       学

 

 

   同  弁護士   中   西       基

 

 

         同  弁護士   髙   坂   明   奈

 


 

第1 原判決の事実誤認

1 はじめに

   原判決は、争点(1)(国家賠償法1条1項の違法の有無)について、原告は「任用予定期間経過後に再び相談員として任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものではない」とし、「大阪労働局長が平成23年度に原告を相談員として再採用しなかったからといって、直ちにその権利ないし法的利益が侵害されたとはいえない」、「非常勤職員である相談員の任用行為は、国家公務員法附則13条及び人事院規則8-12に基づいて行われる公法上の行為であり、法令に基づいて行われなければならないから、法令に定められた任用方法の例外を認める余地はない」などと断じた(原判決17頁)。そして、「任命権者が日々雇用職員に対して、任用予定期間満了後も任用を続けることを確約ないし保障するなど、同期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたという特別の事情がある場合には、当事者間の信頼関係を不当に侵害するものとして、職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損害につき、国家賠償法に基づく賠償を認める余地があり得る」(最高裁平成6年7月14日第一小法廷判決:大阪大学事件7・14)という判断枠組みを前提にした場合にも、本件においては、任命権者が、期間満了後も任用を継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をした「特別の事情」は存在しないと結論づけた。

   しかし、公務員の任用関係においても、任用継続に対する合理的期待が認められるような場合において、任命権者が当該公務員の再任用を拒否することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、当該公務員は任命権者に対して引き続き従前と同様の地位を有すると解するべきである。なぜなら公務員も賃金により生計を維持する勤労者(憲法28条)であり、再任用が拒否されることは当該公務員やその家族にとって生存を脅かされることにつながり、そのことは民間労働者と何ら異なるところがないからである。

   従って、任期付き公務員の雇止め事案においても、任用継続に対する合理的期待が認められる場合においては、信義則や信頼関係法理によって、法の趣旨や労働の実態に即した妥当な解決を図ることは可能である。

   控訴人(一審原告)は、反復更新された有期労働契約における雇止め事案に関する裁判例を分析した「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」(甲12)にある、雇止めの有効性を判断する際の考慮要素、すなわち、(ア)業務内容の恒常性、専門性、非代替性、(イ)常勤職員と変わらない勤務実態、(ウ)更新を期待させる上司の言動の存在、(エ)更新の手続き・態様、(オ)他の非常勤職員の更新状況、(カ)その他(有期労働契約を締結した経緯、勤続年数・年齢等の上限設定等)という6つの判断要素を総合考慮して、控訴人(一審原告)の任用継続への期待が法的保護に値するかどうかを判断すべきであると主張した(平成25年12月6日付原告第6準備書面3頁)。そして、本件についてこれらの要素を総合考慮すれば、控訴人(一審原告)の任用継続への期待は法的保護に値するということを主張立証した。

   しかるに原判決は、上記の判断要素を独立の要素として捉え、判断要素ごとに、一定の事実認定を行いながら、その一事をもって「直ちに期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬとはいえない。」と結論付け、控訴人(一審原告)の主張をことごとく退けている。  

   原判決の第一の問題は、任用継続への期待が法的保護に値するかどうかを判断する際に、複数の判断要素を総合的に考慮せず、個別に取り上げてその一つだけで「直ちに期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬとはいえない」という。そこには、何らの「総合考慮」の視点がなく、考えずとも最初から答えがあるというに等しい審理不尽がある。その上、個別の判断要素に関する事実認定にも誤りがある。

   以下、原判決の問題点について述べる。

 

2 (ア)「業務内容の恒常性、専門性、非代替性」について

   原判決は、「確かに、相談員の中には、職業相談窓口に配置される相談員のように、キャリアコンサルタント等の資格を有することが条件とされるなど、専門的かつ非代替的な業務を行っている職種がある」と認める一方で、「専門的かつ非代替的な業務を行っているからといって、直ちに期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬとはいえない」とする(原判決17頁)。

   また、原判決は、「厚生労働省が相談員の職種を細分化した上、相談員を職種限定で採用し、相談員の職種や業務内容を随時変更していることから、各相談員の業務は、恒常性を有するとまではいえない」として控訴人(一審原告)が従事してきた相談業務の恒常性を否定している。

   しかし、そもそも控訴人(一審原告)は、自身の従事してきた業務が「専門的かつ非代替的」なものであるという一点を捉えて、それ故に直ちに期間満了後も任用が継続されると期待するのも無理からぬことだと主張していたわけではない。にもかかわらず、原判決は、控訴人(一審原告)の実際に従事してきた業務に専門性、非代替性があったかどうかについては何ら具体的に検討することもなく、事実認定をすることもないまま、前記の認定と判断を示した。また、厚生労働省が相談員の職種を細分化していることや職種や業務内容を随時変更していることを理由に「恒常性を有するとまではいえない」と結論づける(原判決18頁1行目)のは、詭弁というほかない。そもそも職業相談所の基幹業務は求職者の就業のための相談業務であり、相談業務自体は恒常性を有している。職種が細分化されたり職名が変更になることはあったとしても、正規職員はそれに対応して相談業務を行ってきたのであるし、非常勤職員も、例えば「住居・就労確保支援員」という職種に従事していた場合でも、「フリーター等に対する一貫した就職支援」の業務にも従事するという実態があった(I調書32~33頁)。茨木所の庶務課長であったI証人自身が、「やはり、そういった、いろんな業務が混在しておりますので、まあ、そういったところを担当してやっていただくということは、現状ございました」(I調書33頁)、と供述している。さらに、控訴人(一審原告)と勤務期間が重なっていた正規職員であるY氏は、控訴人が職業相談、職業紹介のどちらの席でも仕事をしていたと述べ、「どちらの窓口であれ、業務を担当する能力を有していたからこそ、指示されたどちらの席でも仕事をすることができたと思いますが、業務の内容に実質的な差異を見いだせることができないと思います」と述べている(甲13Y陳述書2頁)。A氏も同様のことを述べている(甲14)。控訴人が職業相談業務に従事していたことは、当時の茨木所の職員の陳述書からも裏付けられるのである。

   原判決はこれらの証拠を看過している点でも審理不尽のそしりを免れない。

 

3 (イ)「常勤職員と変わらない勤務実態」について

   原判決は、「原告の勤務時間(1日7時間30分)や勤務日数(1月20日)は、常勤職員とさほど異ならないといえる」としつつ、「そうであるからといって、直ちに期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬとはいえない」と断じている(原判決18頁)。

   「さほど異ならない」との表現にとどまり、具体的にどの点が常勤職員と違いがあるのかについては言及しないのは、「さほど」という枕詞に意味がないのに等しい。従って、控訴人(一審原告)の勤務時間や勤務日数は常勤職員と同じであったと認定できたのである。しかも、控訴人(一審原告)は、この一点を捉えて、直ちに期間満了後も任用が継続されると期待するのも無理からぬことだ、などと主張していたわけではない。原判決の上記の判示も、検討もなしに最初から「期待するのは無理からぬことといえない」との結論を述べたに過ぎない空疎なものである。

 

4 (ウ)「更新を期待させる上司の言動の存在」について

   控訴人(一審原告)は、更新を期待させる上司の言動の存在として、7つの事実を挙げたところ、原判決は、「aないしgの上司の言動のうち、当事者間に争いがないのは、a及びdのみである」とし、これをもって「直ちに再採用への期待を抱かせるとまではいえない」とし、「その余の主張については、これに添う原告の供述があるものの、他にこれを認めるに足りる的確な証拠がない以上、原告の供述のみによりその前提事実を認めることはできないから、その余を検討するまでもなく採用することはできない」とした(原判決18頁)。

   まず、当事者間に争いのない上司の言動adのみをもって、「直ちに再採用への期待を抱かせるとまではいえない」のは、裁判所の判断を待たずともわかる理である。問題は、被控訴人(一審被告)が否認する事実については、控訴人(一審原告)の供述以外にこれを認めるに足りる的確な証拠がないとしている点である。原判決は、控訴人(一審原告)の供述の信用性を認めず、I証言の信用性に依拠して前記のごとき判断をした。

   しかし、控訴人(一審原告)の業務内容が職業相談であったことや、個別の求職者の職業相談に対応していたことは、前述のとおり甲13のY陳述書や甲14のA陳述書から裏付けることができるし、ハローワーク茨木利用者の陳述書(甲15、16)によっても裏付けられる。このように、控訴人(一審原告)の供述の信用性を補強する第三者の陳述書が存在するにもかかわらず、これらについて原判決は一顧だにしていない。これは、偏頗な採証方法と言わざるを得ない。

   本件において、控訴人(一審原告)が再任用の期待を抱く「特別の事情」となる最も直截的な事実は、当時庶務課長であったI氏が、平成23年3月18日、甲5の1の求人票(就職支援ナビゲーター若年者支援分)に、手書きで「時任氏」と記して控訴人(一審原告)に手渡したことである。

   I氏は、甲5の1ないし4の4枚の求人票を控訴人に渡したこと、1番上に控訴人の名前「時任氏」と書いたこと、若年者支援分が一番上になっていたかどうかは記憶にないが、賃金の高い職種2枚と低い相談員の2枚、計4枚を賃金の高いほうを上にしていたと供述している(I調書6頁、42頁)。また、これら求人票を控訴人(一審原告)に渡した際、I氏は控訴人(一審原告)から「上の2枚の賃金の高い相談員の求人票のどちらが私に向いていますか」と聞かれて、「時任さんが従事していたフリーター常用化サポーターの業務内容が就職支援ナビゲーターの若年者支援分の中に一部入っておりますので、そのことを説明し、こちらが向いているのではないかというふうに返答しました」とも証言している(I調書7頁)。さらに、I氏は、これらの求人票を控訴人(一審原告)に渡した翌日に、控訴人(一審原告)が就職支援ナビゲーターの若年者支援分に応募する旨の意思確認をしたこと、その際控訴人(一審原告)が自分に「ありがとうございます」と礼を述べていたことも認めている(I調書43頁)。こうした一連のI証言からすれば、I氏は、実質的に控訴人(一審原告)供述とさほど異ならない証言をしていたと言える。

   複数ある求人票の中から賃金の高い、それまで控訴人が従事してきた職務内容と業務内容が重なる「就職支援ナビゲーターの若年者支援分」の求人票を一番上にして控訴人に渡したことの認識を、当時I氏は有していたのである。このようなI氏の言動は、任用継続を期待させる上司の言動として極めてインパクトのあるものといってよい。

   にもかかわらず、原判決は、控訴人(一審原告)以外の第三者の陳述書に一瞥もせず、I証言の内容を吟味することもなく、「原告の供述のみによりその前提事実を認めることはできない」と結論づけている。これはあまりに短絡的であり審理の名に値しない。

 

5 (エ)「更新の手続き・態様」について

   ここでも原判決は、平成15年度から平成22年度まで8回にわたり、公募や面接を経ないで、控訴人が再採用されてきたことを認定しながら、①大阪労働局長の委嘱条件通知書には委嘱期間満了後の自動更新は行わない旨明記されていた、②茨木所は非常勤職員全員に対し毎年2月末までに、委嘱期間は年度末までであり、次年度の移植については未定であると周知していたことに加えて、人事院規則に任期を定めて採用された職員はその任期が満了しその任用が更新されないときは当然退職するものと定めていたことを理由として、それまで8回にわたり再採用されてきた事実から「直ちに期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬとはいえない」と結論づけている(原判決19頁)。

   既に述べた通り、8回にわたり公募や面接を経ないで控訴人が再採用されてきたことの一事をもって、控訴人は「直ちに期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬことだ」と主張したわけではない。原判決は、控訴人の生活の根幹をゆるがす本件雇止め事案を労働の実態を見ない形式論によって切り捨てた。原判決が、証拠を十分に検討した形跡は見られない。そこが問題なのである。

   控訴人が、再任用は確実であると約束したのと同視できる、あるいは再任用が確実だとの期待を抱くのも無理からぬと見られる「特別の事情」は、原審で取り調べられた証拠によって、その存在を認定することが十分可能である。

 

6 (オ)他の非常勤職員の更新状況について

(1)原判決の事実認定

原判決は、控訴人の職種であった平成23年度の就職支援ナビゲーター(若年者支援分)は、他の職種の取扱いからは公募にされるべき職種ではなかったとの控訴人の主張を排斥している。

具体的には、まず、原判決は、茨木所は、平成23年度の就職支援ナビゲーター(若年者支援分)の業務内容を、厚生労働省が定めたフリーター等正規雇用化サポーターの業務内容(控訴人が平成22年度に行っていた業務内容)とほぼ同様のものとしたと認めている(原判決19~20頁)。この認定によれば、他の公募によらず任用継続がなされた職種と同様、控訴人についても任用継続が図られるべきことになる。

しかし、原判決は、控訴人が実際に行っていた業務内容に着目して、平成22年度には、控訴人は、その職種が行うとされていた「フリーターに対して担当制による個々人ごとの具体的な就職活動の計画を策定する業務に従事」していなかったと認定し、平成23年度はこの業務に従事させることを予定していたので、業務内容が実質的に同一であるとはいえないとした(原判決21頁)。

しかしながら、この原判決の事実認定は誤っている。

(2)茨木所で予定されていた就職支援ナビゲーター(若年者支援分)の業務内容

 茨木所において、平成23年度の就職支援ナビゲーター(若年者支援分)の業務内容は、求人票の「仕事の内容」欄(甲5)に記載されており、これには「フリーター等正規雇用化支援事業関係業務」として、具体的には、「フリーター等に対する一貫した就職支援」、「履歴書・職務経歴書の個別添削」、「模擬面接の実施」、「求職者に対する職業相談、職業紹介業務」、「各種セミナー講師」、「その他上記業務に付随する業務」と記載されている。これが茨木所で予定されていた主な業務内容である。

このことは、厚生労働省が「職業安定行政の相談員に係る管理業務について」(乙2添付)3(2)イ③において、求人票の記載について、「仕事の内容欄には当該相談員が従事する主な業務を」記載すること、「主な業務は、相談員の小分類ごとに定められた設置根拠に規定された業務を基にして、各労働局の判断により、同一の大分類の範囲内で従事させる業務内容を検討し、記載すること」とされていることからも明らかである。

 そして、この「仕事の内容」の中には、原判決が認定するような「フリーターに対して担当制による個々人ごとの具体的な就職活動の計画を策定する業務」は含まれておらず、求人票に記載されている「仕事の内容」欄の項目はすべて控訴人がこれまで行ってきたものばかりである。

この点、I氏も、「仕事の内容」欄に記載されている業務は控訴人が行っていた業務であることを暗に認め、「個別支援」(原判決がいうところの担当制)については「仕事の内容」欄に記載されていないことを認めている(I調書31~32頁)。

 茨木所は、「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」の業務内容について、甲第5号証の求人票の「仕事の内容」欄にあるような業務を予定しており、それは控訴人が従前に行っていた「フリーター等正規雇用化サポーター」としての業務と同様の業務であった。そのため、大阪労働局は茨木所に対して、おそらくは茨木所の意見を聞いて、「フリーター等正規雇用化サポーター」を「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」に移行させる旨の「相談員枠内示表」(乙7)を交付しているのである。

この内示表は、平成22年度末の相談員と平成23年度の相談員とを、業務内容ごとの対応関係で示し、右端にその増減を記し、職種が廃止になる場合は「廃止」と記すことでその変化を表している。

これによれば、茨木所において、控訴人の業務は、職種が廃止されることなく、かつ、増減も行われることなく、平成23年度に引き継がれていることが明らかなのである。

(3)これに対し、原判決は、原判決別紙3(乙9)の記載から、「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」に対しては、職業相談窓口に配置し(別紙3参照)、担当制による相談業務に従事させることとした」と認定している。

しかし、乙第9号証は、茨木所の組織体制を記載したもので、職種毎の日給や乙第5号証添付の「相談員の配置可能場所及び従事する業務」の内容の概略が記載されているに過ぎない(「担当者制による就職支援」と、就職支援ナビゲーター(若年者支援分)とを対応させて記載しているわけでもない)。この書面の利用目的は不明であるが、前記のとおり、当該安定所における当該職種の具体的内容は、求人票の「仕事の内容」欄に記載されるのであるから、この書面は各職種毎の業務内容を記載したものではない。このような書面をもって予定される業務内容を認定することはできないというべきである。

また、原判決の考え方からすれば、控訴人が以前従事していた「フリーター等正規雇用化サポーター」も「フリーター常用就職サポーター」もいずれも担当者制による就職支援がその業務範囲に入っていなかったことになるが、それは乙第4号証別紙2の記載からしても明らかに誤りである(両職種の業務内容は、「フリーター等に対して、担当制による個々人ごとの具体的な就職活動の計画を策定する等により、計画的できめ細やかな正規雇用化に向けた就職支援を行うこと」とある)。

原判決の誤りは、厚生労働省が定める当該職種の業務範囲の問題と、茨木所において現実に予定されている業務の内容の問題とを混同させている点にある。

なお、乙第9号証は、「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」を職業相談窓口に分類しているが、甲第5号証の求人票では「求職者に対する職業相談・職業紹介業務」を「主な業務内容」としており、いずれの窓口でも対応できるようにしているのである。控訴人が職業相談業務にも従事していたことは宮田氏自身認めることであり(I調書38頁)、このことが控訴人の行ってきた業務と平成23年度の業務に違いがあるとすることの理由にはならない。

(4)なお、原判決は、控訴人が平成17年4月頃から平成20年9月頃まで、主として職業相談窓口の業務を行っていたと主張し、担当制による相談業務に従事していたとの主張に対して、①座席表の記載(乙14の1、2)に反すること、②控訴人のいう個別制による担当業務が茨木所の求職者担当制実施要領(乙11)に基づくものか曖昧であり、職業紹介窓口において担当制による相談業務に従事 していたというのも不自然であるなどとしている。

しかしながら、I氏自身、平成21年に職業相談部門の責任者から控訴人が職業相談の業務を行っていたと聞いていると述べている(I調書38~39頁)。また、求職者担当制実施要領についても、平成18年に出来ていると聞いていたが、明確になっていたかどうかは判らないと述べている(I調書39頁)。

また、同実施要領(乙11)では、「職業相談部門全職員で実施する」とされ、職業紹介窓口の職員であっても原則として担当するとされている。控訴人が従事していた「フリーター等正規雇用化サポーター」も体制上職業紹介窓口振り分けられているが(乙第8号証)、同職種は担当制による就労支援を業務内容とするとされている(乙4。「平成22年度 相談員の配置可能部署及び従事する業務」)。職業紹介窓口の職員が担当制による相談業務に従事することは不自然でもなんでもない。

実際には、求職者の状況に応じて現場で適宜の判断をしていたのであり、職業紹介窓口と職業相談窓口の行き来もあり、例えば、リーマンショックが起きて職業紹介窓口に訪れる人が多くなれば、同窓口を増やして対応するなどのことが行われていたのである。担当制による継続相談なども、上司の判断に応じて適宜行っていたのが実際である。だからこそ甲第5号証の求人票にもあるとおり、「仕事の内容」に「求職者に対する職業相談、職業紹介業務」として臨機応変な対応を可能にしているのである。

原判決は、明白な証拠関係の検討もせず、業務の実情も無視して事実認定している。

(5)以上のように、「フリーター等正規雇用化サポーター」と「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」とは移行されることを前提とした職種であり、職の廃止でもなく、職員の増減も伴わないものであるから、他の職種と同等の扱いをすれば、公募によらず、選考により、任用継続されるべきものだったのである。

 

7 他の職種と異なる取扱いについて

(1)原判決は、公募によらずに任用継続している職種については、配置部署及び主要な業務内容が同じであるなどとして公募による必要がなかったと判断する(原判決21~22頁)。

(2)しかしながら、大阪労働局が茨木所に示した「平成23年度相談員枠内示表」のうち(乙第7号証)、同表のうち平成22年度の相談員が任用継続を希望しているのに、公募が行われたのは、相談員枠に減員があった「求人開拓推進員」「就労支援ナビゲーター(早期再就職支援分)で、選考が行われたのは同じく減員があった雇用保険相談員であり、その他の相談員は職種が廃止された場合を除き希望のとおり再任用されている(被告第3準備書面別表)。

相談員枠に増減がないにもかかわらず、公募となったのは控訴人の職種である「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」のみである。

(3)この点、原判決は、①就労支援ナビゲーター(就労支援分)とその前身である就労支援ナビゲーター(生活保護受給者等)及び就労支援ナビゲーター(生活保護受給者等)は、配置部署が同一であり、業務内容も重なっている、②就労支援コーディネーター(中小企業等人材確保分)とその前身である中小企業等人材確保コーディネーターは、配置部署が異なるものの、主要な業務内容が同一である、③学卒ジョブサポーター(高卒等担当、大卒等担当)と高卒就職・大卒就職ジョブサポーターは、配置部署及び主要な業務内容が同一である、などと判断している(原判決21~22頁)。配置部署と主要な業務内容が異なる控訴人の職種とは異なっていると言いたいのである。

しかしながら、①については、そもそも別の職種を統合しているほか、平成22年度には配置のなかった「就労支援ナビゲーター(ホームレス等)」や「就労支援ナビゲーター(住居喪失不安定就労者)」などの業務内容が付加されているのであり(乙5。平成23年度相談員の配置可能場所及び従事する業務)、これでどうして業務内容が「重なっている」といえるのであろうか。原判決は業務内容が「同一」といえないため「重なっている」と表現しているが、付加された業務があっても「重なっている」から公募によらなくてもよかったというのであれば、原判決の認定する事実を前提にしても控訴人の職種と何ら変わりはない。

また、②についても、業務内容は、平成22年度は「ハローワークの求職者に対する中小企業等雇用創出支援事業の説明、きめ細かい職業相談及び対象者の選定。管内の人材ニーズの把握及び実習型雇用等を実施する企業の求人開拓。求職者の受け入れ事業主に対する教育訓練等の相談・助言」とされている一方、平成23年度は、これらに加えて、「実習型雇用支援事業の利用を検討している事業主等への相談援助を行う。各種助成金の支給申請の受付や確認、支給事務等の支援を行う。実習型雇用を実施する事業所の調査を行う」等の業務が追加されている。決して主要な業務内容が同一であるとはいえない。また、原判決が拠り所にしている乙第7、8号証の組織体制では、所属部署が、「事業所サービス部門」から「職業相談部門」に変わっている。控訴人の職種が職業相談部門内の配置の相違であることに比べれば極めて大きな相違である。

さらに、③についても、業務内容について、「企業等に対して、新卒者、既卒者の採用についての相談、助言並びに提供を希望する新卒者の情報提供・マッチング等応募・採用に関する業務」が付加されている(乙4、5)し、乙第8号証には、大卒就職ジョブサポーターの配置について記載すらされていないにも関わらず、同号証により配置部署は同じなどと認定している。

原判決は、このような職種について(控訴人の職種とは異なって)「必ずしも公募による必要がなかった」などとしているが、何らの説明も、理由付けも、論理もないと言わなければならない。

(4)控訴人の職種を公募にしたことについて、原判決も、被控訴人も合理的な説明を全く行うことができず、他の職種については、減員がない限り公募によらず任用継続が行われているのであるから、控訴人の職種についてのみ公募によったのは、被控訴人が控訴人を職場から排除する意図を持っていたからにほかならない。

 

8 セクハラ事件の被害者支援をした控訴人を排除する目的

(1)原判決は、控訴人の不採用が「セクハラ事件の被害者を支援した原告を茨木所から排除する意思の下に行われたとは認めがたい」とする。

(2)しかしながら、前記のとおり、控訴人の職種のみ公募によったという事実は、被控訴人の不当な動機・目的を推認させるものである。また、原審で提出した平成27年4月24日付原告準備書面(12)20頁以下に述べている事実は、そのことを裏づけている。

(3)この点、原判決は、①セクハラ事件の支援を行った平成21年8月より後の平成22年4月1日に控訴人が再採用されていること、②平成23年3月にI課長が職業相談員の求人票も交付していることも併せ考えると、控訴人を排除する意図があったとは認められないとする(原判決23頁)。

しかしながら、セクハラ加害者が大阪労働局より処分を受けたのは平成22年4月2日であり(甲4)、控訴人が被害者と交流し相互の関係性があるなかで見え透いた雇止めができなかったのは当然である。

また、I課長が他の職業相談員の求人票を交付したのは、控訴人が自ら選択したという体裁を整えるためであり、だからこそ他の求人票も重ねつつ、一番上に「時任氏」と記載して、これを受ければ任用継続されるかのような言動を行ったのである。

第2 原判決の法令解釈の誤り

1 原判決の判示

  原判決は、「人事院規則8-12-8による改正前の人事院規則8-12(職員の任免)74条に基づき、任用予定期間が経過し、任期満了により退職したというほかないから、任用予定期間経過後に再び相談員として任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものでない」と判示する(原判決16頁)。その理由について、原判決は、「非常勤職員である相談員の任用行為は、国家公務員法附則13条及び人事院規則8-12に基づいて行われる公法上の行為であり、法令に基づいて行わなければならないから、法令に定められた任用方法の例外を求める余地はない」と判示している(原判決17頁)。

 

2 反論

(1)はじめに

  行政行為が法律に基づいて行われなければならないことは当然ではあるが、形式的には法律に基づいて行われた行政行為であってもそれが結果的に違法と評価される場合には、そのような行政行為が許されないこともまた当然である。

  本件においては、後述のとおり、控訴人(一審原告)の雇止め(不再任用)は違法と評価されるのであるから、原判決の判示するように、ただ単に法令に基づいて行われたということのみをもって、控訴人(一審原告)の請求を棄却することは明らかに失当である。

(2)任用継続に対する控訴人(一審原告)の合理的期待は法的に保護されるべきであること

 ア 公務員の勤務関係の法的性質

   公務員の勤務関係について、戦前の日本では、帝政ドイツ期の官吏制度を受け継ぎ、統治権の総覧者である天皇が官吏とその組織に関する法制(勅令)を自ら策定し、その勅令によって官吏を任用・指揮命令する関係とされていた。そこでは任命する者(天皇)とされる者(官吏)との関係は特別権力関係(命令と強制)であるとされ、民法の適用は排除された。他方、勅令で定められた官吏の身分を持たない(官職に叙せられない)「雇員」や「傭人」については、民法上の雇用契約に基づいて労務に服し報酬を得ていた。

   このような「官吏」と「雇員・傭人」という二元制は、戦後の改革によって、「公務員」に一元化された。すなわち、戦後改革では、特権的な「天皇の官吏」を法律の規律の下、政府によって雇用される「労働者」に変える一方、私法的契約関係にあった「雇員・傭人」を労働力の提供と報酬の支払いという私的な性格にとどまらず、行政の公共性を担う労働として、公務の民主的統制や公職への公正・平等なアクセス保障などの見地から、法律による規律に服することとし、両者をともに公務員(公勤務者)として一元化したのである。

    公勤務者を定義すれば、「雇用者としての政府」との契約によって公勤務に従事する労働者であって、その勤務関係が「政府としての政府」が定立する法律による規律の対象となりうる労働者である。すなわち、公衆(その代理人としての政府)は、雇用者としては対等な立場で求職者に対向し、合意によって公勤務者としての地位を付与し、契約に基づいて指揮命令し、その労務提供を規律する。他方、公衆は、統治者(主権者、法定立者)として勤務関係(使用者のみならず勤務者)を規律するのである。

  なぜなら、近代市民社会にあっては、労務の提供は命令ではなく契約によるべきであり、この原則は公勤務にも当てはまるからである。公務員に対する任命権者による指揮命令や人事管理は、公権力の行使としてあるのではなく、その基本は一般の労使関係と同じく、当事者間の合意、すなわち、公勤務者と「雇用者としての政府」との間の契約によって生じると解するべきである。

    他方、公勤務関係には、公勤務関係の当事者、勤務、勤務に付随する行為、勤務条件等、勤務関係の全体が「統治者たる公衆」(=「政府としての政府」)が定立する法令による規律の対象となるという特質がある。公勤務関係は、このような複合的な性質を有する法律関係なのである。

  イ 合理的意思解釈と法の一般原則による補充

  「政府としての政府」が公勤務関係をどの程度法令によって規律するかは立法政策の問題である。そのため、ある種の公勤務関係について、「政府としての政府」は、積極的には規律しないが、明確に禁止もしていない(立法者の沈黙ないし法の欠缺)ということもある。このような場合に、当該公勤務関係をどのような法律関係と解するのかにあたっては、当事者間の合理的な意思解釈によって決する他ない。また、当該公勤務関係において発生した紛争を解決するにあたっては、公勤務関係の基底にある「近代市民社会の普通法」としての法の一般原則(信義則、権利濫用の禁止、均衡の原則など)に立ち返って考えるしかない。

  ウ 更新を前提とした任期付き任用

    人事院規則8-12第42条1項(改正前の人事院規則8-12第15条の2)は、「臨時的任用及び併任の場合を除き、恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任命してはならない。」と規定している。

    ところが、現実には、恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員であるにもかかわらず、形式的には、任期を定めて任命される職員が多数存在していることは公知の事実である。そのうち、形式的には「非常勤職員」と呼称されているものの、その勤務の実態をみれば、常勤の職員とまったく同じフルタイム勤務だという職員も多い。    

公共職業安定所(ハローワーク)における「相談員」は、その大多数が、常勤の職員と同じフルタイムの勤務時間で、かつ、担当している相談業務は恒常的な業務である。にもかかわらず、形式的には「非常勤職員」と呼称することによって、上記人事院規則8-12第42条1項の規定が潜脱されているのが実態である。ちなみに、総務省の「一般職国家公務員在職状況統計表」によれば、平成26年7月1日現在で、厚生労働省には3万5167名もの非常勤職員が在職しており、常勤職員3万0266名を人数では上回っている。

    このように恒常的におく必要がある公共職業安定所の「相談員」に充てるために任命され、実態としてフルタイムで勤務している「非常勤職員」について、その法律関係をどのように理解すればよいかが問題である。これは、いわば法の欠缺というべき事態なのであるから、その法律関係については、当事者間の合理的な意思解釈によって決する他ない。

    そして、恒常的な相談業務に従事するべく、専門的な知識やスキルを求められて、任用されている「相談員」は、形式的には任期を1年と定められてはいるものの、再任用しないことについて正当な理由がない限りは、次年度以降も継続的に更新されていくことが当然の前提とされていると考えられる。それが任命権者と非常勤職員の双方の合理的な意思でもある。

    すなわち、公共職業安定所の「相談員」の法律関係は、更新を前提とした任期付き任用であると解することが相当なのである。

  エ 任用継続への合理的な期待は法的に保護されなければならない

    このように更新を前提とした任期付き任用と解される場合には、正当な理由がない限り任用が更新されるであろうとの期待(合理的期待)は、法的にも保護されなければならない。

    更新を前提とした任期付き任用と解される場合であるにもかかわらず、正当な理由なく、再任用をせずに雇止めをした場合には、任命権者は、当該職員の合理的期待を裏切ったことについて、損害賠償の責任を免れない。

  オ 控訴人(一審原告)の任用の法的性質

    更新を前提とした任用であると解されるかどうかは、①業務内容の恒常性、専門性、非代替性、②勤務実態、③更新を期待させる上司の言動の存在、④これまでの更新の手続き・態様、⑤他の職員の更新状況等の諸事情に鑑みて判断される。

    控訴人(一審原告)については、原審における控訴人(一審原告)の平成27年4月24日付準備書面(12)に詳述したとおり、以下の諸事情が認められるのであるから、その任用の法的性質は、更新を前提としたものであったと解することが相当である。すなわち、①公共職業安定所における恒常的かつ基幹的な業務である相談業務に従事し、かつ、セミナーや研修の講師をも担当するなど業務内容の専門性や非代替性は高かった。②勤務実態としては、常勤の職員とまったく同じ就業時間(8時45分から17時15分まで)・休日(週休2日)であった。③上司からは「よくやっている」「頑張っている」などの言葉が随意掛けられてきたほか、キャリアコンサルタントの資格取得を勧められ、現に、平成22年3月には同資格を取得している。④平成14年4月から平成23年3月まで、合計8回にわたって更新(再任用)され続けてきた。⑤他の「相談員」らも職員配置枠に変更がない限りは原則として更新(再任用)されてきている。

(3)大阪大学事件・最判平6・7・14について

ア 原判決の判示

原判決は、相談員の任用行為が公法上の行為であることのみを理由に、控訴人(一審原告)には再任用を期待する法的利益を有さないとする一方で、「任命権者が、日々雇用職員に対して、任用予定期間満了後も任用を続けることを確約ないし保障するなど、同期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたという特別の事情がある場合には、当事者間の信頼関係を不当に侵害するものとして、職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損害につき、国家賠償法に基づく賠償を認める余地があり得る」と判示する(原判決17頁)。

この原判決の判示は、原判決も引用する大阪大学事件・最判平6・7・14に則ったものである。

イ 本件は大阪大学事件最高裁判決の射程外である

しかし、原審における控訴人(一審原告)の平成26年3月14日付準備書面(7)で詳述したとおり、大阪大学事件最高裁判決は、本件のように国家公務員法の趣旨に抵触するような任期付き任用のケースは射程外であるというべきである。すなわち、国家公務員法は、職員の身分を保障し職員をして安んじて自己の職務に専念させる趣旨から、職員の任用を原則として無期限のものとした。任期付きの任用は、特段の事情が存在し、かつ、かかる法の趣旨に反しないものでなければ、そもそも許容されない。そして、大阪大学事件の事案は、かかる法の趣旨に反しない任期付き任用の事案であった。ところが、本件は、特別の習熟、知識、技術又は経験を必要とし、代替的とはいえない公共職業安定所の相談業務に従事する相談員であるにもかかわらず、任期を定めて任用されていたという事案であって、上記大阪大学事件とは、事案を異にする。

また、大阪大学事件の事案は、当該職員には、任用継続への合理的な期待があったものとは認められない事案であった。ところが、本件は、既述のとおり、控訴人(一審原告)には、更新され任用が継続することについて合理的な期待が認められる事案であり、やはり、上記大阪大学事件とは、事案を異にしている。

原判決は、このような事案の相違を一切捨象して、ただ漫然と大阪大学事件最高裁判決の判示を引用するものであって、失当である。

ウ 控訴人(一審原告)の任用継続に対する合理的期待は法的保護に価する

大阪大学事件一審判決において、任用継続の期待が法的保護に価しないと判断された実質的な理由は、国家公務員法や人事院規則において、能力の実証に基づかないで任用された任期の定めのない職員の損害が許容されていないからであったと考えられる。

しかし、控訴人(一審原告)は、能力・適性による選考を経て、採用・再採用されてきたのであり、控訴人(一審原告)の任用継続に対する合理的期待は、法的保護に価するものと言わなければならない。

この点においても、本件は、大阪大学事件とは事案を異にしている。

 

第3 結語

上述のとおり、原判決には事実認定および判断の誤りがあるため、棄却されるべきである。

                         以上