被控訴人答弁書に対する反論

平成27年(ネ)第2130号

控訴人(一審原告):時任玲子

被控訴人(一審被告):国

 

準備書面

(被控訴人答弁書に対する反論)

 

大阪高等裁判所第5民事部 御中

 

2015(平成27)年9月30日

 

控訴人訴訟代理人弁護士   有   村   と く 子

 

 

   同  弁護士   河   村       学

 

 

   同  弁護士   中   西       基

 

 

         同  弁護士   髙   坂   明   奈

 

 

 

 

 

第1 答弁書第3「法令に定められた任用方法の例外を認める余地はない」との主張について

 1 被控訴人の主張

   被控訴人は、「期限付任用が繰り返されること等によって、期限の定めのない任用に転化し、あるいは、任用予定期間満了後における不任用について解雇の法理の(類推)適用を認める余地はない」と主張する(答弁書6頁)

 2 控訴人主張を曲解していること

控訴人は、「期限の定めのない任用に転化」するなどと主張しているわけではない。被控訴人の反論は、控訴人主張を曲解したものであり失当である。

   また、被控訴人は、「期限の定めのない任用行為がない限り、期限の定めのない任用関係が成立するとは解し得ない」とも主張する(答弁書7頁)。しかし、控訴人は、控訴人の地位が「期限の定めのない任用関係」だと主張しているわけでもないので、やはり控訴人主張を曲解した主張であって失当である。

 3 控訴人の主張

   公務員の勤務関係の法的性質は、法令によって規律される特殊な形式の契約と解される。その理由については、控訴理由書18頁以下に詳述した。

   国の非常勤職員の地位について規律するのは、国家公務員法や人事院規則である。もっとも、法令によって規律されていない部分(積極的には規律しないが、明確に禁止もしていない部分)については、当該部分に関する法律関係の内容・性質は、当事者間の合理的な意思解釈によって決せられることになる。

人事院規則8-12(職員の任免)では、期限付任用と期限の定めのない任用が区別されているが、期限付任用であってもそれが更新される場合があることも想定されている。また、任期満了後の再任用については、何の規程もない。他方では、「臨時的任用及び併任の場合を除き、恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任命してはならない」とも規定されている。

以上を前提に、恒常的に置く必要がある官職である公共職業安定所の「相談員」に充てるために任命され、実態としてフルタイムで勤務している職員の法律関係については、形式的には任期を定められてはいるものの、再任用しないことについて正当な理由がない限り、継続的に更新・再任用されていくことが当然の前提とされていると考えられ、それが任命権者と当該職員の双方の合理的な意思でもある。

すなわち、公共職業安定所の「相談員」の法律関係は、更新・再任用を前提とした任期付任用であると解することが相当なのである。

そして、更新・再任用を前提としていたにもかかわらず、正当な理由なく更新・再任用せずに雇止めをした場合には、任命権者は、当該職員の合理的期待を裏切ったことについて、損害賠償の責任を免れないのである。

   以上のとおり、控訴人は、「期限の定めのない任用に転化」したと主張しているものではないし、「期限の定めのない任用関係が成立する」と主張しているものでもない。

4 「当事者双方の合理的意思解釈によって、その内容を定めることは許されない」との主張について

  被控訴人は、公務員の任用については、「当事者双方の合理的意思解釈によって、その内容を定めることは許されない」と主張する(答弁書7頁)。

  しかし、被控訴人は、その主張に何の理由も根拠も示さない。

  法令による規律に反する合意が許されないことは当然であるが、法令が何ら規律していない部分(沈黙している部分)について、当事者が合意によってその部分の内容を定めることは何ら禁止されていない。

5 「任期が満了したときには当然に退職する」という規定について

  被控訴人は、人事院規則8-12第52条3号(改正前の人事院規則8-12第74条1項3号)の規定を摘示して、任期が満了したときには当然に退職するものとするということが、政府としての政府(統治者たる公衆)の意思であると主張するようであるが、これも失当である。

  上記人事院規則8-12第52条の柱書は、「次の各号のいずれかに該当する場合においてその任期が更新されないときは、職員は、当然退職するものとする。」との規定である(下線付記)。すなわち、任期が更新された場合には、当然退職するわけではない。

  また、上記人事院規則は、任期満了・退職後の再任用については、何ら規律していない。

  したがって、上記人事院規則を根拠とした被控訴人主張もやはり失当である。

  

第2 答弁書8頁第3-4「大阪大学事件最高裁判決(平成6年最高裁判決)に関する主張」について

 1 被控訴人が控訴人主張を曲解していること

   被控訴人は、「控訴人の期限付任用行為(以下「本件任用」という。)が違法であったとしても、そのことによって、本件任用が期限の定めのない任用となるものではない」として、控訴人主張を批判しているが、失当である。

   既述のとおり、控訴人は、「期限の定めのない任用となる」と主張しているわけではない。

 2 控訴人の主張

   大阪大学事件最高裁判決の事案は、臨時的な、本来の意味での任期付き任用の事案であった。他方で、本件は、特別の習熟、知識、技術又は経験を必要とし、代替的とはいえない公共職業安定所の相談業務に従事する「相談員」について任期を定めて任用されていたという事案であって、このような任期付き任用は、身分保障の趣旨を及ぼさなければ、国家公務員法の趣旨に抵触するおそれのあるものであったと言わざるを得ない。

   さらに、大阪大学事件最高裁判決の事案は、本件とは異なり、当該職員には任用継続への合理的な期待があったものとは認められない事案であった(原審の原告準備書面(7)に詳述したので参照されたい。)。

   したがって、大阪大学事件最高裁判決と本件とでは明らかに事案が異なるのであるから、雇止めした任命権者の損害賠償責任に関する判断の枠組みも自ずと異なったものとなるはずである。

   具体的には、更新を前提とした任期付き任用については、正当な理由なく更新・再任用しないことは、それ自体が直ちに違法となるであって、使用者は雇止めによって生じる損害について賠償責任を負うと解すべきなのである。

 

第3 答弁書9頁第4「雇い止めの有効性を判断する際の考慮要素」に関する原判決に事実誤認はない、との主張について

 1 (ア)業務の恒常性・専門性・非代替性、(イ)常勤職員と変わら ない勤務実態」はそもそも平成6年最高裁判決における「特別の事情」たりえないとの主張について

    被控訴人は、本件においても、平成6年最高裁判決の判断枠組みが妥当するとの前提に立ち、控訴人が「雇い止めの有効性を判断する際の考慮要素」として挙げた(ア)ないし(カ)の各事情は、同判決における「特別の事情」に関する主張として位置づけられることになるとし、上記(ア)と(イ)はそもそも平成6年最高裁判決における「特別の事情」とはなり得ないと主張する。

    被控訴人のかかる主張は、平成6年最高裁判決が示した「特別の事情」を「誤った期待を抱かせた何らかの積極的行為があった場合に限り、損害賠償の余地を肯定したにすぎない」と解釈したことによるものである。しかし、平成6年最高裁判決の「特別の事情」を、被控訴人主張のように「(誤った期待を抱かせる)何らかの積極的行為があった場合」に限定的に解釈すべき理由は、少なくとも本件においては存在しない。既に述べた通り、平成6年最高裁判決と本件とでは明らかに事案が異なるのであるから、同判決の示す「特別の事情」の解釈も、事案が異なれば自ずとその事案に即した解釈が妥当する。そのため、控訴人が指摘した上記(ア)ないし(カ)の各事情が平成6年最高裁判決における「特別の事情」として、そのまま引き写されるべきものでないことは当然である。

    控訴人の主位的主張は、あくまでも、本件のごとく職業安定所における相談業務のごとき特別の習熟、知識経験を必要とする高度かつ専門的な業務は、更新を前提とした任期付き任用については、正当な理由なく更新・再任用しないことは違法であるというものである。

    そして、仮に平成6年最高裁判決の判断枠組みに従った場合でも、本件では、①任用継続を期待させる上司の言動があった、②業務内容に変更がない、という事情を挙げて、「特別の事情」が認められると予備的に主張した(詳細は原審における原告第6準備書面7頁第3で論じた)。

    控訴人が問題にしているのは、原判決が、「非常勤職員である相談員の任用行為は、国家公務員法附則13条及び人事院規則8-12に基づいて行われる公法上の行為であり、法令に基づいて行われなければならないから、法令に定められた任用方法の例外を認める余地はない。」として、平成6年最高裁判決の判断枠組みを本件に適用したこと、その具体的適用にあたっても事実認定と判断を誤っていること、なのである(控訴理由書2~4頁)。

    従って、(ア)業務の恒常性・専門性・非代替性、(イ)常勤職員と変わらない勤務実態」はそもそも平成6年最高裁判決における「特別の事情」たりえないとの主張は、被控訴人が「特別の事情」を「誤った期待を抱かせた何らかの積極的行為があった場合」であるというふうに独自の限定的解釈をしたこと(これ自体失当である)に基づくものであり、控訴人の主意的主張を正しく理解しない、的はずれな主張と言わざるを得ない。

 2 「更新を期待させる上司の言動の存在」ほか「特別事情」に関する被控訴人の主張について

   被控訴人は、控訴人が「更新を期待させる上司の言動の存在」として、挙げた7つの事実のうち、gの事実(宮田課長の言動)について主張したことについて、「宮田課長の言動の一部を自らの都合の良いように曲解するものである」と主張したり、その他控訴人が主張する原判決の事実認定と評価の誤りについて指摘する点を論難している。しかし、被控訴人がこれらの点に関して縷々述べることは、いずれも控訴人の指摘に対する反論たり得ていない。

   控訴人の業務内容が職業相談であったことや、個別の求職者の職業相談に対応していたことは、前述のとおり甲13の山瀬陳述書や甲14の松永陳述書から裏付けることができるし、ハローワーク茨木利用者の陳述書(甲15、16)など、控訴人の供述の信用性を補強する第三者の陳述書が存在する。にもかかわらず、原判決がこれらについて一顧だにしていないことを、控訴人は「偏頗な採証方法」として批判しているのである。

   控訴人は、平成23年3月18日、宮田課長から、「資格も取りはったし、業務内容も重なっていますから、この仕事が一番ふさわしいんじゃないですか。子どもさんもいてはることやし、15万じゃやっていけないでしょう。」と言われた(甲17)。これは、控訴人をして任用継続への強い期待を抱かせる重要な事実である。被控訴人は、この事実を否認し、原判決は、原告の供述の信用性を吟味することをせずに、宮田課長の証言を根拠なく採用して、「他にこれを認めるに足りる的確な証拠がない以上、原告の供述のみによりその前提事実を認めることはできない」と結論付けた。しかし、かかる事実認定が誤りであることは、控訴理由書(7頁~8頁)で述べたとおりである。

   なお、「担当制の相談業務に従事していなかった」と認定した原判決を正しいとする被控訴人は、「控訴人の言う個別制による相談業務が茨木所の求職者担当制実施要領(乙11)に基づくものであるか否かについては曖昧であり、職業紹介窓口において担当制による相談業務に従事していたというのも不自然である」等と主張する。

   しかし、控訴人が特定の求職者について初回相談から就職まで一連の相談業務を担当してきたことは、「担当制による職業相談に従事」してきたことと同義であることはこれまで主張したとおりであるし、現に、控訴人が交付を受けた平成20年4月1日付委嘱条件通知書(甲2)の業務内容欄には、「フリーターに対して、担当制による個々人ごとの具体的な就職活動の計画を策定する等により、計画的できめ細かな常用雇用化に向けた就職支援を行うこと」と明記されている。甲2によれば、控訴人が担当制の相談業務に従事していたことは証拠上優に認定しうる。にもかかわらず、この事実すら認定しなかった原判決の誤りは明白なのである。

 

第4 答弁書16頁第5「平成23年度就職支援ナビゲーター(若年者支援分)については、公募の必要性があり、そのことに合理性が認められること」について

 1 被控訴人は、控訴人が従事してきた「フリーター等正規雇用化サポーター」と、平成23年度の「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」とは、業務内容が異なるので、公募する必要性があったとし、原判決も、両者の業務内容はほぼ同じであるが、控訴人が平成22年度には担当性による相談業務を行っていなかったことを認定した上で、実質的に同一であるとはいえないと認定したものであるとする。

2 しかしながら、前記のとおり、控訴人は担当をもって職業相談業務にも従事してきた。

また、控訴理由書においても記載したとおり、平成23年度の「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」の求人票に記載されている「仕事の内容」欄の項目はすべて控訴人がこれまで行ってきたものばかりである。茨木所においては仕事内容の変更など全く考えていなかったのであり、原判決が客観的な事実に反する認定を行っているのである。

さらに、被控訴人及び原判決は、平成23年度の「就職支援ナビゲーター(就労支援分)」「就労支援コーディネーター(中小企業等人材確保分)」「学卒ジョブサポーター(大学等担当)」などについて、定められた業務内容に変更があるにもかかわらず公募が行われていない点を控訴人が具体的に指摘しているにもかかわらず、これについては全く何の理由も示さず、実質的に同一であったと認定・主張している。原判決の認定や被控訴人の主張こそ根拠がない。

3 平成23年度において、職種廃止の扱いにされておらず、職種の減員などで任用継続希望者が定員を上回ることもなかった職種において、公募対象とされたのは控訴人の職種のみであり、人員を削減する必要のなかった職種はすべて公募によらず任用継続されているのである。

  これは明らかに不合理な対応であり、控訴人が主張するように、セクハラの被害者支援に関わったことの報復措置として、本件雇止めが行われたことを示している(本件雇止めが、セクハラ支援の報復として行われた点については、第1審原告第12準備書面20頁以下に記載したとおりである)。

 

                        以 上