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平成24年(ワ)第6437号 損害賠償請求事件

原 告  時 任 玲 子 

被 告  国

 

準備書面 (10)

                         

平成26年8月30日  

 

大阪地方裁判所第5民事部5係 御中

 

原告訴訟代理人  弁護士  有  村  とく子

 

             同   弁護士  河  村     学

 

            同   弁護士  中  西     基

 

            同   弁護士  高  坂  明  奈

 

 

第1 はじめに

   原告は、平成23年度も任用が継続されると期待していたところ、その期待に反して、平成22年度末をもって雇止め(不再任用)となったことによって、生計の糧を奪われることとなったものであり、本訴訟は、任用継続への期待を侵害されて生計の糧を奪われたことによって原告が被った多大な精神的苦痛に対する慰謝料を請求する訴訟である。

   本書面では、原告が平成23年度も引き続き任用が継続されるものとの期待を抱くにいたった事情(原告をして任用継続を期待させる事情)について、あらためて整理して主張するものである。なお、これら事情は、最高裁平成6年7月14日判決(大阪大学事件)における「特別の事情」にもあたるものである。

 

第2 任用継続を期待させる事情

 1 業務内容の恒常性、専門性、非代替性

   原告が従事してきた職業相談業務は、特別の習熟、知識、技術又は経験を必要とするきわめて高度かつ専門的な業務であり、代替的な業務ではなかった(準備書面(6)4頁以下)。

   原告が従事してきた職業相談業務は、ハローワークにおける基幹的で恒常的な業務であり、継続的な職員の配置が必要であった(訴状8頁)。

   なお、平成23年度に求人票(甲5の1)が原告に提示され、原告が応募した「就職支援ナビゲーター」の業務内容は、平成22年までに原告が従事してきた業務内容(職業相談業務)とほぼ同じものである。

 2 契約上の地位の性格

   ハローワークにおける職業相談員は、人事院規則8-12を根拠として採用された「非常勤職員」である。もっとも、「非常勤」という用語にもかかわらず、就業時間(8時45分から17時15分)や休日(週休2日制)といった勤務の実態においては、常勤の職員とほぼ変わらない(いわゆる常勤的非常勤職員である)。(準備書面(6)6頁)。

 3 当事者の主観的態様

 (1)平成17年6月22日、原告は、上司であるK指導官より、「セミナーを担当するうえで、今後のために見ておかれた方がいいでしょう」と言われ、「大阪キャリア交流プラザ」の見学に連れて行かれた。その際、K指導官より、「キャリアコンサルタントの資格があるんですが、僕は去年受験して1回目失敗したんです。でも今年受かりました。時任さんも取っときはったらどうです?」とキャリアコンサルタントの資格取得を勧められた(訴状9~10頁)。

    これに対する、答弁書での認否は、「おおむね認める」である(答弁書8頁)。

 (2)平成18年2月頃、原告は、就職困難と思われた相談者について求人先の面接に漕ぎ着けた件で評価され、当時のM統括職業指導官から、「あなたは必要な人材です」と言われた(訴状10頁)。

    これに対する、答弁書での認否は、「否認する」である(答弁書8頁)。

 (3)平成20年12月、S上席職業指導官から、「あなたはよくやってくれている。あとは資格を得て客観的根拠を作ることやね」と励まされた(訴状10頁)。

    これに対する、答弁書での認否は、「否認する」である(答弁書8頁)。

 (4)平成20年または平成21年の4月、辞令交付時にT所長から、「前のY庶務課長から、とてもよくやってもらっていると聞いています。がんばってください」と声を掛けられた。なお、原告を含めた非常勤職員が所長と直接に話をする機会はめったになく、個別に声を掛けられるのは特別のことである(訴状10頁)。

    これに対する、答弁書での認否は、「T所長が原告に声をかけていたことは認め、その余は不知」である(答弁書8頁)。

 (5)平成22年1月、原告は、T所長に、「これから子どもにお金がかかるので収入を上げたいんです。ランクの高い職に応募することはできますか。」と尋ねると、T所長から、「何か資格持ってるの?」と聞かれた。原告は、この所長との会話により、収入ランクの高い職に応募するには資格取得が必要であることをあらためて確認したため、資格取得に向けた勉強に励み、同年2月にはライフケアカウンセラーの、同年3月にはキャリアコンサルタントの資格試験に合格した。これらの資格取得を、所長をはじめとする上司らに報告した(訴状11頁)。

    これに対する、答弁書での認否は、「否認する」である(答弁書9頁)。

 (6)平成22年5月頃、原告は、出勤途中にR府会議員(議員事務所が茨木ハローワークの隣のビル内にある)に出会い、キャリアコンサルタントの資格を取得したにもかかわらずランクの高い職種に任用されなかったことを話した。すると、R議員は、同年6月18日にD所長に話をしてくれたようである。同月29日に、原告は、R議員から、原告が従事しているフリーター関連の業務はずっと続くと所長が言っていたから安心して良い、と言われた(訴状11~12頁)。

    これに対する、答弁書での認否は、「不知」である。

 (7)平成23年3月18日(なお、原告準備書面(6)7頁、原告準備書面(8)8頁では、「2月」と記載していたが誤記である。正しくは、「3月」である。)原告は、I庶務課長から、「資格も取りはったし、業務内容も重なってますから、この仕事が一番ふさわしいんじゃないですか。子どもさんもいてはることやし、15万じゃ、やっていけないでしょう」と言いながら、基本給27万9200円の求人票2件と基本給15万4000円の求人票2件をホッチキス留めにし、1枚目の27万9200円の求人票に「時任氏」と手書きでメモが記載された状態で手渡された(訴状17頁)。なお、その際、1枚目の求人票に関しては、「業務内容も重なってます」との説明があったものの、2枚目以降の求人票についての説明はまったくなかった。むしろ、「15万じゃ、やっていけないでしょう」と述べていたことからI庶務課長としても原告が3枚目と4枚目の15万4000円の求人には応じないであろうことを想定していたと考えられる。原告は、上記のようなI庶務課長の言動を受けて、平成23年度も再任用され、従前と同じく「フリーター等正規雇用化支援事業関係業務」に従事でき、かつ、基本給が27万9200円(平成22年度は基本給21万3400円)にアップするものと確信して、「感謝いたします」と述べて深々とお辞儀をした。

    これに対する、答弁書での認否は、「I庶務課長が、原告に対し、『就職支援ナビゲーター』の求人票を渡したことは認め、その余は否認する」である(答弁書11~12頁)。

    なお、この平成23年3月18日のI庶務課長の言動に関して、被告は、被告第5準備書面13頁では、明確な認否を意図的に回避している。なお、原告準備書面(8)第2・2(3)で原告が再度同じI庶務課長の言動について主張したことに対する被告第6準備書面5頁での認否は、「否認ないし争う」であり、その理由については、「被告第1準備書面第3の4(3)及び被告第5準備書面第2の2(3)で述べたとおり」と記載されている。被告第1準備書面第3の4(3)では、「上司が部下の志気を高めるため、ある程度の声かけをすることは職場では多々あることである。仮にこれらの発言があったとしても、いずれも原告の再採用を確約するものではないことは明らか」とか、「仮に、I庶務課長が、原告を『就職支援ナビゲーター』の採用候補者として決定する予定であったのであれば、原告に『職業相談員』の求人票を配布する必要はないのであって、この事実のみをもってしても、I庶務課長の求人票配布が、原告の採用を期待させるようなものでなかったことは明らか」と記載されている。また、被告第5準備書面第2の2(3)では、「原告の主張するT所長ほか茨木所幹部及び原告の上司の各言動は、いずれも上司が部下の志気を高めるための声掛け程度にすぎず、これをもって原告の継続採用を確約又は保障するものとはいえない」と記載されている。以上のとおり、原告が主張する平成23年3月18日の面接時におけるI庶務課長の言動に関する被告の明確な認否はなされていない。

 4 更新の手続・実態

   原告は、平成14年4月から平成23年3月まで、計8回にわたって再任用されている。

   原告は、「既に他の相談員として委嘱されているもの(既委嘱者)の中から適格者として再委嘱する場合」として、求人公開の方法によらずに、公正・公平な手続で、能力・適正による選考が行われた結果として、再任用されてきた。なお、再任用にあたっては、面接や試験は実施されておらず、従前の原告の仕事ぶりからその能力や適正が判断されてきたものと思われる。

5 他の労働者の更新状況

  茨木所においては、勤続年数が20年を超える非常勤職員が存在した。

また、被告第4準備書面・4頁によれば、平成22年度に非常勤職員であった55名中54名が平成23年度についても再任用を希望し、46名が再任用されている。再任用されなかったのは原告を含めて8名であるが、原告を除く7名のうち4名は60歳以上の者である。

さらに、被告第3準備書面添付の別表によれば、平成22年度の配置枠と平成23年度の配置枠とで人数が不変のものについては、「公募」ではなく、従前の非常勤職員が再採用されていることが明らかである。人員配置数が不変であり、かつ、従前の非常勤職員が再任用を希望しているにもかかわらず、「公募」されているのは、原告が配置されていた「フリーター等正規雇用化サポーター」(平成22年度)・「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」(平成23年度)だけである。

すなわち、平成23年度について従前の職員の再任用ではなく「公募」がおこなわれた職名は、以下の7種類であり、このうち原告が配置されていた職以外について公募がおこなわれた理由はカッコ内に記載したとおりである。

・職業相談員(一般・職業紹介窓口):5名のうち2名公募(増員のため)

・職業相談員(マザーズ):1名公募(再採用希望なしのため)

・職業相談員(職業訓練・求職者支援):2名公募(新設のため)

・求人開拓推進員:5名公募(1名削減のため)

・助成金支給申請アドバイザー:1名公募(新設のため)

・就職支援ナビゲータ(早期再就職支援分):2名公募(1名削減のため)

・就職支援ナビゲーター(若年者支援分):1名公募 ※原告

  原告が従事してきた職について公募がおこなわれた理由について、被告は、「フリーター等正規雇用化サポーター」(平成22年度)と、「就職支援ナビゲーター(若年者支援分)」(平成23年度)とでは、職種が統合され業務内容が変更されたため、公募したと主張する。しかし、「就労支援ナビゲーター(生活保護受給者等)」(平成22年度)及び「就労支援ナビゲーター(住居喪失離職者)(平成22年度)についても、同様に、職種が統合され業務内容が変更されて「就職支援ナビゲーター(就労支援分)」(平成23年度)となっているにもかかわらず、公募によらずに、従前の非常勤職員3名がそのまま再採用されている。また、「中小企業等人材確保コーディネーター」(平成22年度)も、同様に、職種が統合され業務内容が変更されて「就職支援コーディネーター(中小企業等人材確保分)」(平成23年度)となっているにもかかわらず、公募によらずに、従前の非常勤職員1名がそのまま再採用されている(準備書面(6)8~10頁)。

 

6  以上のとおり、原告が任用の継続を期待したことには、主観的にも客観的にも十分な事情が存在するのである。